至極の一杯を淹れる為に俺は集中していた。
ブレンドする量を間違えぬように。
湯の温度を間違えぬように。
注ぐタイミングを間違えぬように。

窓先の陽だまり〜雪降る中の温かい日差し〜

そして一杯のカップに注がれたそれを客に・・・
「78点。これじゃ客には出せんな。」
今日も出せなかった・・・
この店、『sunny spot』でバイトを始めて早3か月。
マスターから90点以上の点数を貰えなければカウンターには入れさせてもらえない。
そんな俺、戸島雅(とじま みやび)は多分ここでバイトをしている間は客に一杯も提供できずに終わるだろう。
半分諦めている俺でも、一応プライドはある。
あそこまで真剣に淹れたのだ。
どこが悪いのかを聞いておかなければ気が済まない。
そして、それを聞いてマスターは一人のセミロングの少女をカウンターに入れ、一杯淹れろと命じた。
俺は、微塵とも回答になってないことに腹を立てたがマスターは「いいから、まずあいつの一杯と飲み比べてみろ。それで分からなければたぶん一生お前はここでカウンターには入れんだろうよ。」と言う。
俺はその解答にも腹が立ち、少しムッとする。
確かにあいつの腕は凄い。
マスターに淹れ方を教えてもらい3日もしたら満点に近い点数を貰っていた。
そんな事を思い返しつつ、今度は自分の不甲斐なさまでに腹が立ちはじめ、そろそろしんどくなってきたところに、一杯のカップが置かれた。
「どうぞ、ごゆっくり。」
皮肉なのか、マニュアル通りに言っただけなのか、はたまた違う意味合いが込められているのかは分からないが、とりあえず俺は「閉店時間超えても居座るつもりでいるんで」と皮肉で返した。

彼女は、柳川恵(やなかわ めぐみ)。
俺と同い年であり、同じ日にここでバイトを始めた。
学校は違うが、列車の中でよく一緒になっていて、顔はお互い知っていた。
聞くところによると、同じこの上代町に住んでいるみたいであり、時偶駅までの道のりで会うこともしばしばあったということもこの話を聞かされた時思い出していた。
バイトのシフトもあるはずなのだが、なにせここのバイトは俺等2人のみであり、放課後や休日は常にと言っていいほど2人ともこの店にいた。

俺は余計な事を考えているなと自分自身を嘲笑し柳川の淹れたカップに口を付け、一口味わった後に自分の淹れたモノに口を付けた。
そこには明確と言っていいほど違いがあった。
柳川の淹れたものと俺が淹れたものはブレンドしたものは一緒。
腕が為せるモノなのだろうか。
明確ではあるが、何が決め手かは解らない。
兎に角、柳川の一杯は温かかった。
もちろん、俺の一杯が先に淹れているので冷めてはいるが、そのような温かみの差ではなかった。
俺はそのことを素直にマスターに言うと「ふむ・・・まだお前はここに入れる可能性があるみたいだな。それが何の差かが解れば後は簡単だ。」とメーカーやポットが置いてあるカウンターをコツコツと指で叩きながら答える。
そのやり取りの間、柳川は終始柔らかな笑顔で俺等2人を見ていた。

基本、俺達のテストは一日一回しか行われない。
何度もやれば、その分時間と費用が重なるからだ。
もちろん、達というのは柳川もであり、一度合格しても毎日テストは行われ、点数が低ければその日はフロアである。
っと言ったが、柳川は一度合格したら常に合格しており、不合格なんて初日と2日目だけだった気がするが・・・
そして今日も落ちた俺はフロアに立ち、客にマスター達の一杯を運んでいた。

カランコロン・・・
最後の客が店から出て行き、俺達は一息入れていた。
「お疲れさま。」
柳川の一言がとても疲れに効くような気がした。
「後はフロアの掃除をしておいてくれれば勝手に帰ってくれて構わない。」
そうぶっきらぼうにマスターは言い、煙草に火を点け一服した後に器具の手入れを始めていた。
「じゃあそろそろ掃除始めようか。」
俺はその誘いを断るはずもなく、そそくさと立ち上がり掃除用具入れに向かう。
時間は午後10時。
喫茶店としては遅くまでやっているほうであろう。

午後11時を回った頃、俺と柳川は店を出ていた。
途中までは帰路が同じな為、帰る時は常に一緒だった。
「ふぅ・・・寒いね。」
それも当然だ。
季節は冬。
クリスマスまであと一週間といったところか。
そんな深夜、気が早いのか雪がちらついていた。
(クリスマスまで待てないのか?降り切ったらホワイトクリスマスにはならんな)等と馬鹿げた事を考えて、少し笑みが零れた。
「なに?なんか可笑しかった?」
「いや別に。思い出し笑いだ。」
あんな馬鹿げた事を考えていたなんて口に出せる訳もなく適当に誤魔化した。
「にしても、今雪降らなくてもいいのに・・・」
「確かにな。帰るのがしんどくなる。」
「そうじゃなくて。」
とそう言い、柳川は俺の前に回り込みこう言う。
「もし、今振りきっちゃったらホワイトクリスマスにならないじゃない。」
俺は、柳川の答えに思わず笑ってしまった。
(まさか、同じ事考えてたとは。)
尚も笑いが止まらない俺に柳川は「ちょっと笑いすぎだよ」とすこし頬を膨れませ言う。
そんな姿が何故かとても愛おしく思えた。
そして、とりあえず言い訳の一つでも言っておこうと思い考えるが特に思いつかず勢い任せで言葉を発してみた。
「まさか、同じこと考えているとは思わなかったんでね。」
その言葉を発した瞬間、柳川の顔がみるみる内に紅くなり照れ隠しなのだろうか、少し俯きながら上目づかいで俺の方を見ていた。
この時、自分の本心の方を堂々と発していた事に気付き、俺の方も紅くなっているのが良くわかった。
とりあえず、何をすればいいか、どんな言葉をかければいいのかわからなくなり、とりあえず紅くなりながらさっきから硬直している柳川を軽く抱きしめ、手を取り歩き出した。
唯、思考が一緒だったということでここまで紅くなっていたのは俺も柳川も若く、純粋だったのだろう。

柳川の手が寒さで冷たくなっているのに気付いて、繋いだままポケットに突っ込みしばらく歩いていたが、一つのY字路にたどり着く。
ここが、俺と柳川の帰路の分岐点。
名残惜しいが、手を解き別れをすませ一人帰路に着く。
今は早く、柳川と同じであるカウンターに立ちたい。
その思いの下俺は彼女の淹れていた手順や分量の見方、注ぎ方を反芻し叩き込みながら一人歩く。
柳川の淹れていたあの味を再現できれば俺もカウンターに立てると信じて。

次の日は生憎の雨だった。
傘を差して駅まで向い、柳川と合流して他愛のない話をしながら俺達は電車に乗り、お互いの目的の駅で降りた。
いつもとなんら変わらない日常に飽き飽きしながらも、神様には感謝した。
(いるかどうかは知らんが、いるならどうかこの日常がいつまでも続きますように。)

『sunny spot』に着いてエプロンを身に纏い今日の一杯を淹れる為にカウンターに立つ。
既にカウンター用として使われているエプロンを柳川が身につけているという事は既に今日も合格しているのだろう。
俺は、常に先を越されているような焦りが生じ始めている心に冷静になれと命令を送り、昨日の彼女の淹れ方を完全に思い出させていた。
(これなら今日こそ合格だ。)

「60点。今までで最悪の味だ。」
告げられたのは酷評。
何ら彼女の淹れ方と変わりはない。
もしかしたら多少ブレンドする量が違ったかもしれないが、昨日の点数より下がる事はなかっただろう。
「お前は、誰に淹れるんだ?お前はどうやって淹れて何を飲んでもらいたいんだ?これならインスタントとなんら変わらんぞ。」
俺はこの酷評の意味が解らずにいた。
(淹れるのはもちろん客に。完璧なタイミングで完璧なモノを淹れて、喜ばれるようなものを飲んでもらいたい。)
俺はこの信念の下に淹れていた。
これが何か間違いなのだろうか。
このマスターに逆らっていてもカウンターには入れないので素直にその信念を話す。
「完璧ね・・・ならお前の完璧は柳川なのか?まぁ、今日は反省しながらフロアに出ろ。自分で答えぐらい導きだせ。」
俺はかなり落ち込みながらフロアにでる。
その様子を見て柳川は微笑みながらやさしく声をかけてくれた。
でも今は何故あれほどの酷評になったかを考えるので精一杯だった。

あれから数日が過ぎた。
マスターの酷評の答えが導き出せぬまま試行錯誤をし続けたが、80点すら越えれぬ日々だった。
その間、俺と柳川は一緒に帰る事もなく、登校の時間も別々となっていた。
「・・・何が駄目なんだ・・・」
溜息を吐きながら『sunny spot』への道を歩く。
(柳川の淹れ方は完璧だ。それはマスターが常に合格点を出し続けているのだから間違いはない。)
俺は何が駄目なのかわからないまま、マスターの酷評だけが頭の中をループし、思考の迷路に迷い込んでいた。
(柳川の淹れ方を真似していては駄目という事か?ならマスターのを手本にして淹れてみるのはどうだろうか。もしかしたら柳川の淹れ方は特殊であって、ちょっとしたバランスの崩れが味を乱すのかもしれない。)
そんな思考に今日は辿り着き、マスターの淹れ方を反芻して叩き込んだ。
(しかし、それなら常に合格の柳川はどんだけすごいんだ。)

「・・・飲む気にもならん。」
あれから店に辿り着き、テストを受けてカップを出した瞬間のマスターの一言だった。
「どうしてですか!!」
俺は客がいるのにも関わらず声を荒げた。
「お前・・・柳川じゃ駄目なら次は俺か?勘弁してくれ。」
言っている意味が解らず俺は次に唯呆然とした。
怒りとか憤りとかを超えて、完全に手詰まりとなった自分に何も見いだせなくなっていた。
「俺は自分で答えを導けと言ったはずだ。お前はいつまで他人に頼るつもりだ。ここまで言って明日、同じ過ちを繰り返したならクビだ。今日は帰れ。柳川だけで店を回す。贋物はこの店にはいらん。」
俺は完全に打ちのめされて帰路に着く。
その道筋で一人咽び泣きながら・・・

家に辿り着き、部屋に閉じこもる。
この時になればすでに涙は止まり、思考も冷静なものに変わっていた。
(明日がラストチャンス。失敗したらあの店に2度行く事ができない。)
俺は思考をフルに駆け巡らせて考える。
マスターが言った一語一句思い出し考える。
あの時マスターは何と言っただろうか。
・・・
「自分で答えを導く。柳川が完璧か?他人に頼る?次は俺?贋物は・・・」
ほとんどのマスターの言葉を並べた時に俺は一つの結論に至った。
時刻は0時を回り日付が変わっていた。
12月24日・・・クリスマス・イヴ、今日が俺のけじめの時となるだろう。

俺は真っ直ぐ『sunny spot』へ向かう。
今までは溜息ばかりだったが、今日は足取りも軽かった。
(マスターの言葉の答えがアレであれば俺はあそこにいられる。)
不正解という想定はすでに捨てていた。
それは多分、今の俺には足枷にしかならなかった。
(一杯を淹れたら、どう転んでも一杯だけ、柳川に淹れてもらおう。)
そう決めて俺はいつの間にか辿り着いた『sunny spot』の扉を開ける。
(さぁ、一発勝負だ。)

至極の一杯を淹れる為に俺は集中していた。
ブレンドする量を間違えぬように。
湯の温度を間違えぬように。
注ぐタイミングを間違えぬように。
そして何より、心を込めて・・・俺のやり方で。
誰のマネでなく、自分の知識と腕を信じて自分だけの淹れ方を。
そして、マスターへのちょっとした反逆心をスパイスとして。
俺は自分の一杯をマスターへ出す。
これが俺の出した答え。
誰の真似でもない、俺だけの淹れ方。
誰にも負けないつもりの心で淹れた一杯だ。
マスターはゆっくりとカップに口を付け一言発する。
「・・・85点。あと少しだな。ちょっと嫌みな味がする。」
俺の脚は崩れた。
どこも間違っていないはずである。
答えが間違っていたのか。
最後のチャンスを棒に振った感じとなり、しかし、心に決めていた事を実行はする。
「・・・柳川・・・一杯淹れてくれないか?」
「はい。」
その声はどこまでも透き通っていて、温かい声だった。

柳川は淹れ終わり、俺にカップを差し出すとすぐにフロアに戻って行った。
多分、1人だから忙しいのだろう。
俺は柳川の一杯に口を付けて一つ溜息をついた。
「旨いだろう。」
マスターが声をかける。
当たり前だ。
彼女が淹れたんだから・・・
「飲んだら早くフロアへ行け。」
「はい?」
俺は疑問に思った。
不合格なのだからクビであるはずだから・・・
「確かに今回は不合格だが、お前は自分で答えを導いた。だがまだ形に出来きれていない。まだまだ修行は足りないがやっと本物になったな。だからクビにはせんよ。」
俺は素直に感謝して飲み干してフロアに出る。
(これなら今日からまた・・・)

店が閉まり、俺は柳川を誘い共に帰る事にした。
こんな事、何日振りだろうか。
「ふぅ・・・寒いね。」
いつだったか、こんな会話をしたような気がする。
そんな事を思い出したら笑みが零れていた。
「なに?なんか可笑しかった?」
「いや別に。思い出し笑いだ。」
今回は正直に言う。
今日こそはと思っている事がある。
だから今日は正直に・・・

彼女との分かれ道であるY字にたどり着く。
「また、明日ね。」
彼女はそういい、いつもの道を歩もうとする。
その時俺は呼び止めた。
「ちょっと待ってくれないか。」
「なに?」
彼女は振り向き、俺の方を見る。
その表情はいつもの温かい微笑み。
俺は決心し、言葉を紡ぐ。
「ちょっと待ってくれないか・・・今日は合格できなかったけど・・・いつか合格した時に・・・柳川・・・いや恵に一杯飲んでほしい。だから・・・」
俺は言葉を紡ぎきれなかった。
一番伝えたい事は言えず仕舞いだったのに俺はこれ以上言葉を紡げなかった。
そんな時に不意に唇に何かが当たった気がした。
焦点が急だったので合っていなかったが、段々と何があったか視覚で判断できるようになってきた。
そして、俺は理解する。
柳川が俺にキスをしていた。
涙を眼尻に溜め、ぎゅっと目を閉じて俺に・・・
俺はやさしく抱き、一度放した唇を再び重ねた。

ほんの数十秒の出来事が永遠のような時間を感じさせた。
再び唇を離した時にスルリと腕の中から柳川が抜け出し俺に向かって言う。
「ずっと待ってるからね。私は雅君の事大好きだから。・・・だからその時は雅君からちゃんと最後まで告白してよ?じゃあね。」
彼女はすこし悪戯っぽい笑みを残し足早に去って行った。
俺は唯、いままでの出来事とあの笑みが忘れずに立ち尽くしていた。

次の日、俺はいつもより早く『sunny spot』へ向かった。
今は唯、はやく合格を貰う為に通う事になるだろう。

『sunny spot』へ向かう途中、突然携帯が鳴る。
相手はマスター。
何事かと思い出るとマスターの声が酷く沈んだような声でそれで要件を伝えてきた。
俺は最後までそれを聞かず、走り出した。
寒空の下のクリスマスの日だった。

柳川家葬儀。
その文字が否応がなく目に飛び込む。
俺は飛び込むように柳川の家に駆け上がる。
柳川の家なんか知らなかったが、街中に立った看板が俺を導いた。
なにやら騒がしい、それでいて冷たい空気の溜まった部屋に俺は足を運ぶ。
其処には一つの棺が置かれていた。

マスターが俺に声をかける。
しかし今の俺には何も聞こえなかった。
ただ、しめやかに葬儀が行われ、終わった。
俺はその瞬間、崩れ落ちた。

「・・・やっと起きたか。」
目を開けると其処は『sunny spot』の休憩室だった。
「まさか倒れるとは思わなかったぞ。」
俺は何も整理できず、ただボーっとする。
ただ、少しでも情報が欲しくてマスターに何があったかを聞いた。
「・・・柳川の奴が死んだんだよ。その葬式中・・・っていうか葬儀の最後にぶっ倒れたんだよ。」
既に俺の思考はストップしていたが、それでも詳しく聞こうと質問を続けた。
「死因ね・・・交通事故だ。飲酒の上に携帯だったみたいでな。トラックに撥ねられて即死だそうだ。滅多にトラックなんぞ通らんのだがな・・・それと柳川がふらっと飛び出たのもあったらしい。しっかりしている柳川だが・・・何があったんだか。」
俺は・・・兎に角呆然とした。
あの時、呼び留めなければ助かったかもしれない。
あの時、もう少し呼び留めていたら助かったかもしれない。
後悔だけが頭を巡らせていた。
そんな中、マスターが一言言う。
「・・・今日のテストだ。一杯淹れてくれ。」

俺は訳もわからずただ一杯淹れている。
もう、淹れる為の目標を失い、このバイトを辞めようと思っていた時の一言に、最後の一杯だと思い淹れてみている。
そしてそんな思いの中できた一杯をマスターに出す。

「男ってものはある味を追い求める。」
マスターは一杯の半分ほどまで飲むとポツリと語りはじめた。
「ひとつは所謂お袋の味。彼女に肉じゃが作ってくれとか味噌汁作ってくれとか・・・まぁ古いがそういうのはそこから来ていると思う。」
マスターが何故このような事を言い出しているかは分からない。
マスターはマスターの一杯を淹れた後少し残った分をカップに注ぎ淹れた。
「それともう一つあり、それは恋し、愛した者の味だ。愛しただけでなく、恋した人の味は忘れない物となり、次のお袋の味になるんだろうな・・・」
俺はますますわからなくなり、カップを手に取り口を付ける。
「俺が昨日不合格を出したのはな・・・今日みたいな味が出てたんだよ。」
俺は一口味わうと、いつの間にか嗚咽混じりに泣いていた。
「まるで柳川が淹れたような味なんだよ・・・」
外はすっかり陽が落ち、雪が舞っていた。

あの後から俺は兎に角バイトに明け暮れていた。
柳川がいなくなから忙しくなったのもあったが兎に角柳川の事を忘れようとただ只管淹れていた。
学校を卒業してからは一日中『sunny spot』で働き続けたのもあって、この時には柳川の事については思い出の一つとなっていた。
急がしかったのもあったし、必死に忘れようとしていたのもあった。
だから、いつの間にか俺の中から柳川の事は風化していった。
その為かあれ以来、あの柳川の味は一切出なくなっていた。
幸か不幸か、あの俺の初恋が風化しようとしている時に彼女に出会い、今に至る。
その出会いが、柳川への想いを過去のモノとし俺の新たな味の探究の始まりとなっていた。

卒業から数年経ち、俺はマスターから店を任されるようになっていた。
すっかり、隠居となったマスターは俺にこの店を譲り放浪の旅に出ていた。
そうして『sunny spot』の新しい主となった俺の元に一通の手紙が届く。
内容は、マスターがとある土地で店を構えたとの事だそうだ。
名前も『sunny spot』だから名前は返せとの事。
だからその店の名前を自分で決めろとの事だった。
「ふむふむ、っでどんな名前にする?」
一人の女性が俺に尋ねる。
俺は彼女の作ったみそ汁を啜りながら考え答えを出す。
「そうだな・・・これなんかどうだ?」
俺は適当な紙にペンを走らせそれをみせる。
「・・・ただの和訳じゃない?ソレ・・・」
「とりあえずみそ汁食ってたら思いついた。」
俺は彼女に悪いと思いながらも照れ隠しのように適当な言い訳をしておいた。
みそ汁の湯気の先に映る景色は雪が舞っていた。
(・・・ホワイトクリスマスか・・・)

あの紙にはこう書いていた。
あの寒い冬の中、たった一つの窓先に差し込んだ暖かな日差し。
初恋だった彼女の事をすこし思いだしながら・・・
喫茶・・・


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