窓先の陽だまり〜いつもとは違う日々というものは突然訪れる〜

いつもとは違う日々というものは突然訪れる。
同じ事の繰り返しである単調な日々も恋しくなるような時が突然訪れたりする。
なぜ私が行き成りこのような事を語り出したかというともちろん。
私が今その状態である訳で・・・
「・・・どうしてこうなったのかな・・・」
独り何もない部屋の片隅に座りながら呟く。
そして思考を廻らせて辿り着いた結果は・・・
(・・・明らかに仕事の失敗のせいか・・・)
先ほどからその結果が堂々巡りしている。
この状態になったのは数時間前・・・
原因となっただろう事自体は更に数時間遡ったところにある。
とりあえず、今の状況というと・・・
「監禁された〜!!」
「うるせー!!黙ってろ!!」

数十時間前
「・・・ふむ・・・とうとう燈司の研究が実ったみたいだぞ?」
そう当店のマスターが新聞を広げながら私に言う。
かなり科学技術が発展した今、新聞というのは紙の媒体ではなく、液晶から見るPCサイトの配信のような物だけとなってしまっていたのだが、この町にある上代大学は物好きなのか、在学生と卒業生そして家族を対象に紙の新聞を提供している。
だから今となっては見なくなった新聞配達という職業があったりする。
ところでその新聞の内容なのだけど、学園内でおきた事件・事故、研究成果に授業変更等の緊急・予告の知らせ等の狭いモノから世界情勢まで詰まっている。
っで、今回マスターが振ってきた話題なんだけど・・・
「あの、何でも切れるっていうオーパーツだっけ?」
「正確には昨日オーパーツの仲間入りしたみたいだけどな。」
その話題は研究成果の欄に記されていたらしく、そこには知り合いの顔が載っていた。
先に述べておくけど、オーパーツっていうのは昔の人ではつくることができないはずの物体が過去から発見されたモノの総称なんだけど、もちろん今の時代で実現できなかったらオーパーツになんかできないってわけ。
だって今できないなら本当は存在してちゃ駄目な訳だから存在自体あまり知らせなかったりするのだけど・・・
今回は私達の知り合いが研究を進めていた、なんでも切る事ができる物体の精製法がわかったらしい訳。
今の世の中そんなものは存在しなかったわけだからこれで晴れてオーパーツの仲間入りしたってこと。
「にしてもまだ実験段階で傷を付けれる程度ってことだが・・・眉唾だな・・・」
この新聞・・・実は色々と規制が掛かっているのである。
全てを公表せずに、完成していてもまだ実験段階とかよくあることで、あちらの言い訳としては『危険な実験や心理的に不安を与えるような実験・事故などもある為、全ての結果を流す事を控える』とのこと。
本当のところはただ、実験結果の盗難、事件の発生等を防ぎたいだけなんだろうけど。
今回の実験だって、完成したならどんな犯罪にでも使える万能ツールにだって成り下がるのだから。
「まぁ一応完成ってことでいいんじゃない?後でお祝いに行こうよ。」
「うむ・・・しかしだな・・・」
ここでマスターは渋る。
これは当然なのかもしれないが・・・だってマスターは・・・
「中退してるしね。だけど関係ないんじゃない?学園との関係じゃなくて、あくまでも燈司さんとの関係なんだし。友達なんでしょ?」
マスターは様々(?)な経緯でこの店を経営している。
詳しい事は知らないけれど、経営の為に上代大付属高校を中退する形になったらしい。
「まぁ・・・そうだな。閉めたら顔出すとするか・・・ん?」
マスターは新聞を捲ると同時に顔を顰めて記事に注目する。
そのページは昨日亡くなった方のお悔やみの欄だった。
この新聞・・・亡くなり方の詳細まで書いてあったりするわけで。
「またカオハギが出たみたいだな。」
マスターが言うカオハギというのは今幻獣と呼ばれる生物のひとつである。
まず幻獣というのは上代大学が実験にて生み出した物語等に登場するような合成獣(キメラ)や昔いた恐竜のような絶滅種の復活などで生まれた生物の総称。
もちろん温和な生物ばかりではなく、数年前に上代大学で起きた事故によって大半の幻獣が流失したらしい。
この件については幻獣自体が暴れたとか上代がデータを取る為にわざと放したとかいう憶測も流れている。
カオハギは文字通り人の顔を剥ぎ殺害していく幻獣である。
喉元あたりから垂直に鋭い刃物で綺麗に切り取られている。
まさに顔だけ採られているのだ。
その切り口の鮮やかさからかなり熟練した刃物の使い手だと憶測されているが、ここまでの使い手は存在するかも怪しいそうで、今や幻獣として噂されている。
この手の事件は模倣犯等も多く自称カオハギは沢山捕まってはいるけど。
しかしマスターが見ているページの欄にはカオハギの被害とは書いていない。
むしろ他の人は詳しく書いてあるのに、この人だけは何も書かれていないのだ。
「あいかわらず上代はカオハギを認めてないんだね。」
「むしろこの表記は認めているとしか思えないんだがな。」
マスターは苦笑しながら言う。
それもそうだ。
ここだけ何も書かれていないのはおかしいのだから不審に思うのも当たり前だ。
「とりあえず物騒だから美波も帰る時は気をつけろよ?」
「わかってるってば。・・・さてそろそろ開店の時間だよ?」
「うむ・・・そうだな。朝一番のヤツ味見頼む。」
「うん。」
この朝一番の味見は私の特権である。
マスターは一日一日勘を取り戻さないと腕が落ちたまま客に出すことになるといってこの日課だけは欠かさない。
そんな毎日が再び今日も訪れる。

ぼーっと私は窓の外を見つめる。
決してサボっているわけじゃない。
ただ・・・
「暇だなぁ〜・・・」
こう呟くしかない。
開店してしばらくし、一通りの常連さんが帰ってお昼もまわり、この店の一番暇な時間。
「・・・客がいるんだからそんな格好でおらんでくれ・・・」
そう呟くマスター・・・
まぁ椅子の背もたれに抱きつくような感じで椅子に座りながらぼーっと窓を見上げてる姿・・・もしかしたらスカートの中見えてるかもとか思いながらもやめようとはしない。
確かに今はお客さんはいるけど今いるお客さんはいつもの常連さんだし、いつもコーヒー飲みながら新聞読んで帰ってしまう人だから私なんか見向きもされない。
そんな事を考えている内にピンポーンとチャイムが店に鳴り響いた。
「・・・っと本業の始まりみたいだな。先行ってるぞ?」
そう言い放つとマスターはカウンターから出で店の奥に入っていく。
それを見送ってからお客さんの方を見ると既に姿はなく、テーブルに料金が置かれており、店の看板はクローズに変えられていた。
ここの常連ならあのチャイムが何の合図か分かっているのだろう。
私はカップを片付け、少し乱れていた服装を直し店の奥を目指す。
(今日は長い一日になりそう・・・)

この店『窓先の陽だまり』は喫茶店というわけではない。
確かに喫茶の名を掲げているが本業は喫茶店とは反対の位置に当たる何でも屋『窓先の陽だまり』である。
庭の草むしりから探偵の真似事まで全力を尽くすのがモットーであり、そこそこの評判は頂いている。
今回の依頼はとあるアパートに住むイイヌマさんという人からの依頼であった。
「・・・さて、ここを訪ねたという事は何かお困りなのですね?」
決まり文句をマスターは真剣に面持ちで言う。
こんな所からここまでする必要はないだろうけど・・・と思ったりするけどとことん全力なのだからここでオチャラケしても・・・ということなのだろうと私はここに来てから早めに諦めていた。
「実は私の住むアパートの隣人についてなんですけど・・・」
イイヌマさんは前評判と真剣に取り組んでくれるという空気にポツリと語り始めた。
概要は隣人の部屋から子供の泣くような声や、女性の喘ぐような声が毎日四六時中聞こえるという話。
ただの夫婦の営みとその子供の泣き声程度ならイイヌマさんも注意できるのだが、隣人は結婚どころか彼女も居る様子もなく、部屋を出入りするのは数人の男のみだという。
あまりにも不審なので管理人さんや警察に相談するもののまともに扱ってはくれなかったそうだ。
今の時代法律が改正され、子供に対する犯罪は通常の刑の数倍から数十倍の上限なしの重罰が科せられる。
そんな世の中だから子供の声というのに引っかかりを感じ依頼に来たそうだ。
(今回も単なるデバガメで終わりそうだな・・・)
この手の依頼はよくあるのだ。
その証拠か、マスターの顔も少々面倒くさそうな表情をしている。
「あの・・・受けて頂けるでしょうか・・・」
イイヌマさんが不安気に尋ねると透かさずマスターはこう答えた。
「もちろんです。調査方法はこちらにお任せください。一週間程度で報告をするようにします。調査対象は部屋の住人の行動と部屋の中ですね。では料金のほうなんですが・・・」
マスターは有無を言わさないような饒舌で捲し立てた。
よっぽど今回の件は関わりたくないのだろう。
そんな中契約は進み無事結ばれるとイイヌマさんは帰っていった。
「ふぅ・・・今回のはどうせ勘違いとか単なる虐待だろ?」
さらっと問題発言を面倒くさそうに言うマスター。
勘違いならまだしも虐待は十分に犯罪に繋がるものなのに。
「とりあえず、俺はその隣人の情報掻き集めておくから美波は現場に行ってくれ。」
「は〜い。」
これが私が監禁されるきっかけの第一歩だったのだけどもちろんマスターはおろか私だって知らなかった。
いつもの捜査態勢だったからこそ油断していたのもあった。
だから私は十分な対策なんてしていなかった。
いつものようにマスターとの連絡用の端末と調査用の道具を引っ提げ依頼人の住むアパートへ向かった・・・

一見は唯の2階建てのアパートだった。
一度依頼人であるイイヌマさんの部屋にてある程度の調査方法を説明し、調査を始める。
私はとりあえず張り込む位置を決め、今回の依頼の事件としての可能性を洗い出してみる。
今回の依頼は子供の泣き声と喘ぎ声の苦情。
今の時代、重大犯罪としてあげられているのは娼館問題と児童虐待・育児放棄・売買春・猟奇殺人etc・・・
今挙げただけでも大量に出てくるが、3大事件としては娼館問題・児童育児関係・そして幻獣による被害である。
しかもほいほいでてくる事件だから日常茶飯事当たり前のようなことになっている。
だけど・・・それでも大きく取り上げられる事がある。
娼館自体は違法ではないのだが、その娼館に児童がいるということで問題となるのだ。
メディアもネタの枯渇状態だから3大事件・・・特に娼館の児童達は取り上げられる。
そんな児童達も娼館にいる理由がちゃんとある。
自ら身体を売り金を稼ぐモノ、止む得ない事情で入るモノ、そして無理やり入れられたモノ・・・
理由は何であれ未成年・・・特に児童は雇った側は重罰を間違いなく求刑されるのだ。

そんな事を考えながら見張りを続ける。
位置はアパートの正面が見える少し影となった場所。
見つかってもすぐに撤退できるし、ある程度誤魔化しの効く場所でもある。
(なんかどれも現実味も帯びてないなぁ〜・・・どうせ今回も精々虐待止まりなんだろうな・・・)
ぼーっとしているところにマスターからの連絡がはいる。
『美波。聞こえるか?』
その問いに私は正直に答えるとマスターは情報を喋りはじめた。
『最近、その地域の小学生が連続して行方不明となってる。更にもう少し高範囲で見てみても行方不明になっている事件が多発しているな・・・これはもしかすると・・・』
私はその言葉を聞くや否や顔がにやけるのがわかった。
(久々の大事件か・・・これは有名になるチャンスかもしれないよね?)
その考えが出てきた後、マスターとの通信は切れ再び見張りに入ろうとした瞬間、私の視界はブラックアウトした。

なにが起きたか全くわからない。
しかし、少し思考を巡らすと自ずと答えはでた。
(捕まったか・・・)
見渡して今いる場所を理解しようとする。
普通のアパートの一室の一階のようなのだが、二階の部屋に行けるように手製と思われる階段が設けられていた。
その二階の開けられた穴も歪な形なのだから手製の可能性はかなり高いだろう。
そしてとあることに気付く。
(イイヌマさんの部屋の間取と一緒・・・ということは・・・)
ここまでくるとこの場所の位置なぞ大体わかってくる。
多分ここはイイヌマさんの隣の部屋の真下の階。
そして私は・・・

っとここまでが私が監禁された経緯であった。
私が大声を出した瞬間に上の穴から男が顔を出し怒鳴り付けた。
私はとりあえず自分の装備を確認する。
通信をした直後だったので端末は取られているが、録音機材などはすべて残っている。
着衣の乱れもないから変なことはされていないだろう。
私はとりあえず冷静に今後の対策を練る。
(とりあえず潜入には成功したということでいいけど・・・私が誘拐されただけじゃ特に解決にならない。)
そう考えながら適当にポケットを漁ると出てきたのは身分証明証。
もちろん私のモノだけど職業の欄は全く違う。
身分は学生であり、小学生だ。
不本意であるけど結構使えるモノであり、実際通ってしまうからこの社会は大丈夫かと疑問に思う。
しかし今の私はそんなことよりもそれとは違うもう一つの疑問が生まれた。
今のご時世、身分証明書を持ち歩かなければ何もできない。
だから私もちゃんと持ち歩いている。
身分証明書はリバーシブルのように『本当』の身分証明書も入っているけど・・・
それよりも疑問というものは・・・
(身分証明書の入っている場所が変わってる・・・)
流石に『小学生』の証明書があるので盗難やバレる事があってはならないので通常では落とさないようにある位置に隠して持ち歩いているのだが、その位置になかった。
おおよそ気絶か眠らされた時に落としたのだろうけど、わざわざ私のポケットに入れる必要はない。
そのまま自分のポケットに入れておくとか処分をするとかをすればいいのだ。
大体身分証明書を持たれていたら万が一逃げられた時に捕まる確率が上がる。
証明書はこの国に住んでいる事が示せれる唯一のモノであり、その人物が法で守られている事が示される唯一のモノ。
身分証明書を持ったすれ違った人物等のデータが全て国のデータバンクに収められ、警察は許可が下りれば自由に閲覧ができる。
それにGPS機能もついており勿論データは送られているのでこれからも調査は簡単になる。
だから証明書を持たせておいても百害あって一利なしである。
「さて・・・どうしたものかな・・・」
考える事は一先ず中断し座りながら天井を見上げる。
そんな時にふと後ろに気配が生まれ情けない事に再びブラックアウトした。

目が覚めると私はモニタールームのような所にいた。
目の前には数十のモニターが映り込む。
そこに映る映像は目を覆いたくなるようなモノだった。
私がその映像に釘付けになっているまさにその時、声が掛けられた。
「お目覚めかね?」
凛とした透き通った男性の声。
顔はまだ見てないが声優としてならトップレベルの美声。
(顔が並以上であれば間違いなく惚れるな・・・)
等と思いつつも私をここへ連れてきただろう犯人の顔を拝むため声の方へ顔を向ける。
「実に愛らしい顔立ちだ・・・その睨みつけているその表情も至極のモノだ・・・」
「馬鹿みたいに臭いセリフね。三流騎士道物語にでも感化されたの?」
私はソレの顔をまじまじと見つめながら言ってやった。
ソレの顔立ちやスタイルは並というモノではない。
間違いなくトップレベル。
だがソレには何とも言えない雰囲気があった。
まるでヒトではないような・・・
「強引に招待してすまなかった。それについては詫びよう。」
ソレは軽くお辞儀をし、再び私に目をやる。
私はソレの雰囲気に押されながらもそれを隠しながら強気な態度ででる。
「別に謝ってほしいわけじゃない。拉致監禁はあなた達の仕事でしょうから・・・だけど、あのモニターに映っているのはなに?」
少々語気を荒げて言う私を気にもかけずにソレは答えた。
「ふむ・・・少々知識はあるとは思っていたが・・・違ったみたいだね・・・最近の子はこういうのを知っているとは思っていたんだがな・・・」
そう言ってソレはモニターを軽く叩き、話を続けた。
「少々無知な君でも最近の3大事件は知っているだろ?ここはその一つの組織さ。」
ソレは微笑を浮かべながら言った。
モニターに映っているのは娼館の映像。
それぞれの部屋の中が映し出されていた。
そこに映る娼婦は全てと言っていいほど小さなコドモたち。
部屋の飾りなのか、それともココに来たときに身にまとっていた物なのか、ランドセルが置いてある部屋もある。
だがそんなショウジョ達にはこの頃特有の無邪気さなんて全くない。
快楽に溺れ、表情は悦で固まったかのようになり、ただオトコを欲し、貪っていた。
まだそこまで堕ちていないモノも数人いるのか、抵抗しているモノもいたが、いずれの末路は目に見えていた。
「娼館・・・しかも児童娼館・・・ばれたら死刑モノだね。」
そんな私の呟きに対してただ小さな笑みを浮かべるだけのソレ。
確かに私みたいに小学生と見間違える程のスタイルだったりする女性だって少なくはない・・・多くもないけど・・・
だからここに映っているのもそういう女性を集めた疑似児童娼館である可能性だってある。
私が連れ去られたのもソレが目的でとっくに身分偽造がばれているのかも知れない。
しかしそんな目を背けたい現実を確定のモノとしてしまうコトとなる。
私がモニターから目を離そうとした瞬間、一つのモニターの映像が切り替わった。
私は離そうとした目を再びモニターに戻す。
そこには身分証明書が映っていた。
たぶんそこの部屋のコのものだろう。
その証明書は小学生のモノであった。
偽造技術は簡単にできる物ではない。
私が持っているのだって上代大学の教授や研究員が総動員してやっと作れたモノ。
だから偽造品は絶対に出回らない。
コピーしたりすると黒くなったりして一目でわかる。
だからここに映っているのは・・・
「本当に・・・小学生・・・」
「ああそうさ・・・証明書はそのまま品質保証書となる。ここはおもしろい程電波のジャミングが効くからGPSや擦れ違い連絡もデータバンクには届かない・・・今日からキミもここの住人だ。本当は最初の部屋である程度の調教が必要なんだけど・・・キミは上玉だ・・・傷を付けて商品価値を下げる方がもったいない。処女も数百万程度で売れるだろうからね。・・・それに固定客制にしてじっくり調教というのも実に魅力的なものだ・・・」
「とことん外道ね・・・大体私が処女っていう根拠はないでしょ?」
私は虚勢を張りながら強気を見せる。
ここで今回の事件の内容が全てわかった。
イイヌマさんの隣の部屋はココの商品の調達拠点及び調整場所だったのだろう。
たぶん多くある内の一つか、直に移動できるようにしてあるかだろうけど。
そして多分ここは地下であり、あのアパートの1階から伸びている。
逃げる時は道を塞ぐ手立てはあるのだろう。
穴があったとわかれば其処を掘っていけばいいのだろうけど、今の警察はそこまでは絶対にやらない。
現行犯しか捕まえないと言われるほどになり下がった警察は絶対に・・・
そんなこんなでのらりくらりと警察の目をだまし、商品を調達し、売っている。
たぶん1つの組織と言っていたから、調達してもココでは売らず、ほかの場所は流している可能性もあるけど。
結局は巨大児童娼館の末端組織の誘拐事件だった訳。
私はイイヌマさん用の報告書を頭の中で仕上げた瞬間に先ほどの答えが返ってきた。
「確かにまだキミの事は名前ぐらいしかしらないな・・・なら確かめよう。咲花(しょうか)!!ちょと来てくれ!!」
そう私の知らない名前を大声で叫び、同時に手を鳴らした。
「はい、およびでしょうか。」
いきなり私の後ろから気配が現れたと同時に声が上がる。
(まったく気付かなかった・・・)
たぶんこの咲花さんが私をなんども気絶か何かをさせているのだろう。
「検査室へ連れて行く。前に説明したルートと手順だ。」
「わかりました。」
「では、美波さん・・・いきますよ?」
そう言って投げられた言葉の奥の表情は冷たい氷のような、それでいて残酷な笑みだった。

私は目深まで被ったフードにマントのようなモノを羽織っている咲花さんとソレに付き添われながら長い通路を歩いていた。
左右には扉があり、そこからは微かな甘い声が漏れていた。
それは独りで慰めているのか、誰か他に人がいるかは知る術はないけど・・・
そんな私の胸中を察したのか、咲花さんが口を開いた。
「ここは大変繁盛していまして・・・独りになる時間なんて殆どないんですよ?」
それは私の胸中の質問に対しての答えなのか、それとも此処に連れてこられた私の末路を暗示させるためなのかはわからなかった。
「さて・・・」
そんな発言の暫くした後、咲花さんは立ち止まり私の方へ向く。
(検査室というのに着いたのだろうか・・・)
私に絶望にも似た諦めが襲う。
(たぶん・・・ここからは逃げられない・・・)
頼みの証明書は効かないらしいし、例え効いても警察が動かなければ例外除いて絶対にマスターとかにはここの位置を知らせれない。
イイヌマさんの横の部屋・・・調達部屋から入ろうにも、多分ここの関係者しかわからない、辿りつけなくなるような仕掛けだってあるはず。
私は自嘲染みた笑みを咲花さんに向けた。
咲花さんの手には拳銃が握られていた。
「ごめんね・・・この銃には麻酔弾が込められているの。医療用の即効性の高い麻酔薬と動物愛護の為の傷を一切つけないで打ち込める弾丸でね・・・」
咲花さんは律儀にも拳銃の説明をし、そして引き金をひいた。
多分今までブラックアウトしてたのはこの麻酔銃で眠らされていたのだろう。
私はちいさな疑問が解決したと思った瞬間本日3度目のブラックアウトを迎えた。

小さな部屋だった。
扉は3つあり、壁際には小さな棚がいくつも並んでいた。
そんな部屋の中心で私は縛られていた。
椅子に座らされ、М字に開脚するような形で縛られていた。
椅子のすぐそばに咲花さん(もしかしたら同じ格好の別人の可能性もあるけど・・・)がたっており、正面にはソレが立っていた。
「さて・・・お目覚めのようだね・・・本当は寝ている間に調べてもよかったのだが、君の羞恥する顔がどうしても見たくてね・・・商品となれば私の手元を離れてしまうから、その前にね・・・」
ソレの笑みはとことん嫌らしくなっていた。
しかし私は言い返すぐらいしかできない。
抵抗なんて全くできない。
私の顔が強張っていくのがわかる。
身体中が震えている。
「咲花・・・美波のスカートを捲っていてくれ。私が調べるから・・・」
嫌らしい笑みが更に深まる。
ソレの言葉に従い、咲花さんは私のスカートを捲る。
しかしソレはその様子を見た瞬間に私に迫る足を止めた。
(やるなら早くやってよ!!)
私は羞恥の真っただ中にいて考える事、思考を停止させていた。
ただ、その羞恥が早く終わり、そして早く溺れてしまえるように・・・
そんな中ソレは名案が浮かんだようで声を発した。
「媚薬とクスコも・・・浣腸とかも欲しいな・・・君の穴という穴を見てあげるからね?」
私は絶望に突き落とされた。
まだアソコだけならよかった。
だけどそれ以外となれば別である。
しかもスカトロプレイまで強要されそうなのである。
抵抗したいが動こうとすると私を縛るロープが私の身体を更に締め付ける。
そんな私の状態を嘲笑いながら背を見せてソレらを準備するためにソレは道具があるのだろう部屋の片隅の棚へと向かう。
その時、私の耳元で囁きがあった。
「真横の扉を開けてそのまま真っ直ぐ行けば突き当るから右に、そして・・・」
もちろん咲花さんの声なんだけど、今まで聞いていた声より柔らかな声だった。
私はわけも分からず咲花さんの言葉をただ覚えるだけでそれ以外は何も考えていなかった。
「っと・・・あとは武運を祈るわ・・・」
その言葉が発しられた瞬間に私を縛っていたロープが緩んだ。
咲花さんの方を見ると手元に小さなナイフが握られていた。
咲花さんがロープを切ってくれたのだろう。
私は頭が回っていない状態で椅子から立ち駆け出す。
それは考えての行動ではなく、咄嗟の・・・本能というか反射のようなモノだった。
だからだろう。
私は椅子を蹴り飛ばしていた。
ガタンっ!!
っと音を立てて転がる椅子。
その音にソレは気づいたようで慌てて振り向き何かをした。
私にはまったく分からなかった。
ただ、何か大きな音が数回響き渡り、それだけだった。
私は意識がないような状態で走っていた。
扉の近くに着いた瞬間に少し裏を振り向いたらソレと咲花さんが対峙していた。
私は再び前を向き、扉を開けた。
その瞬間にその扉から一迅の風のように何かが滑り込んできた。
そして私が扉を出る頃に高々と咲花さんの声が響いた。
「警察庁刑事局特務係特殊第6班分署『窓先の陽だまり』藍葉咲花!!罪名はよくわからないけど少女達を売ってた罪として逮捕です!!」
「同じく警察庁刑事局特務係特殊第6班分署『窓先の陽だまり』菊間亮介。とりあえず犯罪者らしいから逮捕する。」
「そんな無茶苦茶な警察がいるか!!大体・・・咲花!!裏切ったのか!!」
「裏切ったも何も元から仲間になってないし、潜入調査な訳だし・・・ってなんか回りくどいからチャッチャッと片づける!!・・・ファイヤー・ボール!!」
ここで咲花さん達の声が聞こえなくなった。
遠ざかったからなのか、私の限界が近いからかはわからないが、ただ私の背中に熱風が訪れて、顔を顰めていたような気がした。

私は無我夢中で歩いた。
咲花さんが教えてくれた道を辿りながら進み、やっと調達部屋へ辿り着いた。
そしてその部屋から出、私はまっすぐ『窓先の陽だまり』へ向かう。
(はやくマスターに連絡しないと・・・)
日は高かった。
ただ、今が何時なのかわからない。
そんな事は全く気にせず私は歩いた。
心配しているだろうマスターの元を目指して・・・
その途中、知り合いにあったような気がしたが、私は何も言わず隣を通り過ぎていた。
いつものコートに紫煙を纏ってその知り合いは立っていた。
私を見て多少驚いていたようだが、そのまま何も言わず(聞こえていなかった可能性もあるけど・・・)私の来た道を辿って行った。
私は気にせずに歩く。
(兎に角今は裕也の元に・・・裕也に会いたい・・・)
そんな気持ちが走った瞬間に私の視界はブラックアウトし、意識は完全にシャットアウトした・・・


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