なんとなくの毎日を過ごしてしいた。
それでも私は満足だった。
いつも同じ作業の繰り返しで、単調な毎日。
見る景色は少しずつ違っていても私がする事は一緒。
友人と喋り、勉強してバイトして時には思いっきり遊ぶ。
そんな毎日を繰り返しているのも多分がそれで満足しているから。
それで欲求を満たしていれば別に問題なんかない。
そんな私だけど、最近少しだけ欲が出てきた。
私は…恋をしたみたいだ。

Non-daily life 〜愛故に恋故に〜

───3年2組の伊那憲哉(いな のりや)。
彼が私の思い人。
同じ学校の先輩というベタなシチュエーション。
別に同じ部活の先輩とか、別格お世話になった先輩でもない。
たまたま廊下ですれ違った所謂一目惚れ。
あのすれ違った日から私の人生は変わり始めたのだ。

私はその日から彼の事を調べていた。
最初は名前やクラス。
それから趣味や所属してる部活。
彼の事なら一つも情報を逃してたまるかという意気込みでいろいろな人に聞いて回った。
彼と出会う前の私はもういなかった。
何となくで欲求を満たせていた私は既にいなく、貪欲なまでに彼の事を知りたくて彼に近づきたかった。
今までの私はもういないのだ。

あの日から周りの人間から私への評価は変わった。
今までは気軽に話せる楽しい友人というレベルだったらしい。
だけど今は云わば愛の狩人などとからかわれる対象になっている。
でも私は思う。
それでいいじゃない。
たった一度の人生なんだ。 どこまでも変わって、本当の自分を見つける。
今の本当の私は、彼に近づきたいと思う心。
私はそれがどう比喩されようと構わない。
だって、今の私が今の本当の私なんだから。

趣味嗜好の同化とでもいうのだろうか。
彼の事を調べていると彼の好きなモノを好きになり始めていた。
今まで名前さえ聞いた事の無いモノまで好きになっている。
今まで特に趣味というモノがなかった私はそれも一つの生きがいなのかと思い少し嗜み始めていた。
これで少し彼に近づいたような気がして…

彼についての情報は大体集まっていた。
誠実で、趣味にのめり込んじゃうけど特に勉強とかには影響が出ないようにとメリハリをちゃんとつける人物で周りにも好印象を持たせている。
それに何より、今付き合っている彼女が居ないようだ。
私は行動を決心する。
彼に気持ちを伝える為に。
それが私のすべき行動だと確信を持って。

正直言って私の恋は……散っていった。
彼曰く、好きな女性がいるそうだ。
彼が告白しないのはその女性が他に熱中するものがあるからそれの邪魔をしたくないからだそうだ。
私はその言葉を聞いた瞬間今までの私に戻った気がした。
彼から感じていたあの情熱は消え去っていた。

いつもの帰り道。
私は独りバイト先へ向かう為少々急いでいた。
今までならこんな状態にはならなかった。
今までの私に戻れたのならこんな事はなかったはずなのに。
少なくても私は今までの私ではなくなり、また一つ違う私になったのだろう。
彼から得たものは既に私の一部となっていたのだろう。
それが愛故に恋故に会得して、その愛や恋が散った今でも私の中で生き続けていた。
彼についてはもう特別な感情もないし、多分会う事だってないだろう。
だけど私の中では彼から得たモノが生きている。───

いつもの色あせたような道を見てふと足を止める。
私は今までは持ち歩いてなかったカメラを持ちファインダー越しに空を見る。
そのままシャッターを下ろし今この時を切り取る。
私はあの日からカメラを持ち歩いた。
自分が好きと思った景色を切り取る為に。
私は今恋をしているのだろう。
彼から貰ったこの趣味を通して。
私はこの空を、この風景達を好きになったのだ。

私は成長したのだろう。
今まで知らなかった世界を知る事が出来た。
それをもっと知りたいと思い始めた。
切り取った景色はどこか切なくて淡い感じがした。
そうこの景色を感じれるという事は…

私は滲むファインダー越しの景色を覗きながら又一枚景色を切り取る。
私は多分この先もカメラを持ち続けるだろう。
私はカメラを下ろし再び歩き始める。
私は立ち止ってはいけないのだ。
そうすると再び何となくの一日に戻ってしまうだろうから。
この景色が無色に映るような日々に戻ってしまうだろうから。
だから私はこの決意と思いとこれから出会う景色を忘れぬように。
私はカメラを持ち続ける。
それはこの景色達に対しての
愛故に恋故に…


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