No25 アホの子

夏休みも序盤が終了して8月。
学生の本分は勉学であり長期休暇となれば必ず出てくるものが一つ…課題。
残念ながら俺はその勉学に対しては不真面目である為に毎日コツコツとやるべきらしいこの課題の山は7月中バイト等の合間を縫って消化してある。
それでも一応テストでは上位にいるのだから自分自身不思議でたまらないのだがありがたい神からの贈り物として受け取っておく事にしている。
まぁ、そんな事はどうでもいい。
結局の所勉学が本分である学生はこの課題というのは避けれないモノである。
実際は未提出で白を切ってもいいのだが残念ながら今回の課題は夏休み後に課題テストが存在しその範囲でもある。
そしてそれがクリアできないと晴陽祭にて大きなペナルティーが科される。
生徒会や委員会の負担減らしの為の強制労働というペナルティーが…
そして、今まさにそのペナルティーを科されそうな人間が目の前に一人いる。
その人間こそ俺の彼女である…
「数学なんて私の人生にはいらないのよー!!」
美波であった。

数日前にちょっとした誤解が生んだすれ違いを解いた後に次のお互いの休みに行く約束をしていた海への話題になった所で一つ心配事であった課題の事を問いかけてみていた。
俺も美波も週一程度しか休みをいれておらず一日中店にいる事もざらだった。
だからこそ課題はある程度進めていないと夏休み中に終わる事はないだろう。
赤点は課題提出でハードルが下がるというシステムが事前に知らされているためやっておいて提出しておけば晴陽祭には影響しないはずなのだが「えっ?やってないよ?少しも」の一言で俺が今日一日を使って勉強会を開くこととした。
姉貴には勉学による休みと伝えたら了承してくれたので安心して勉強を教える事ができる。
なによりこの美波…今回わかった事なんだがあまり言いたくはないが頭は良くないのだ…
「大体証明ってなんなのよ…数学なんて公式覚えて数字入れればいいだけでしょ?」
だらけながら言う美波に丸めたノートで軽く小突く。
「証明も一緒だっつうの。多少文章書くだけで高校の証明なんてそれぐらいで済む」
俺はそのまま手を進めるように急かす。
「むぅ…数学なんてぱぱっと終わるじゃない…」
頬を膨らませながら抗議してくる美波にその方法を尋ねると問題集から何かを引っ張り出し勝ち誇ったように立ち上がる。
「先生も馬鹿でね…なんと全ての問題集に答えを付けっぱなしで配布してるのよ!!これを写せば完璧ッ!!」
俺は丸めたノートを今度は思いっきり頭を叩く。
「馬鹿はお前だ、どアホ!!それは自主的に答え合わせするもんだ!!休み明け早々テストだって言ってただろうが!!」
「むー…まぁ、そうだけど…叩く事ないじゃない…」
今度は涙目で訴えてくる美波。
流石の俺も心を鬼にしないといけないがこれには弱い。
「すまんかった…だが晴陽祭を一緒に回ろうと思ったら今回の課題もテストもクリアしとかないといけないだろ?」
俺はノートを玩びながら言ってみると少しやる気が出たのか笑顔が戻っていく美波。
「そうだね…なら今は数学なんて公式を覚えれば赤点回避できそうなモノより物理だとか英語だとか教えてもらわないといけないものからやるべきだね」
そう言いながら数学の課題集を片付け始める美波を見て思い出す。
「そういえば美波の成績ってどうなんだ?一年の頃の美波ってよく知らないし定期考査は一応クリアしてたようだけど点数なんて知らないし…」
その一言を言った瞬間に美波の身体が固まる。
(こりゃもしかして…)
「おい…とりあえず定期考査の点数と1学期の内申言ってみろ…内訳で」
その俺の追及にしぶしぶのような感じで答え始める。
その答えに俺は深いため息を吐く事になった。
「はぁ…追試は確かに2教科からだが全部赤点スレスレ…どころか数学を毎回落として内申は3すら稀か…」
「家で勉強する事ができないんだからしょうがないじゃない…」
俺は頭を掻きながら少し考えてみる。
(そもそも、美波から家の話って聞かないな…なんか複雑な事情があるみたいだし聞きはしないがこの成績はまずいよな…)
「まったく、なら俺がこれから教えてやるよ…んじゃ得意科目はなんだ?内申からだとどれもどっこいどっこいだけど好きな科目だったり得意な科目だとすこしはやる気はでるだろう」
その言葉に美波は得意気な顔で再び立ち上がり俺に顔を近づけると一言。
「保・健・体・育?」
本来ならここで再びノートでシバくのもいいがここは少し遊んでやることにする。
俺は美波から離れて机から保健体育の教科書を引っ張り出し椅子に座ると少し意地悪そうな顔で言ってみせる。
「そんなに得意なら水泳におけるスタートから浮上し一呼吸目をしないといけない距離は何メートルまでだ?」
「えっ…えっと、私が得意なのはそっちじゃなくて…というかそういう意味で言った訳じゃ…」
完全に困惑している美波を放って置いて2問目を出す。
「体育でなくて保健か?なら…俗に言うPTSDとは何の略だ?英文の短縮前と日本語訳を答えよ」
「わっ…わかるわけないじゃない!!」
完全に逆ギレする美波に俺はここでノートで本日2度目の思いっきり叩きをかます。
「どアホ。前はそういうのは拒否した癖に…というか結局勉学は駄目だと…」
「むぅ…でも今回からは教えてくれるんだよね?なら頑張る」
頭を摩りながら言う美波に俺はその摩る手を退かし俺が変わりに摩ってやりながら言う。
「流石にアホすぎると俺も手に負えないがな?」
「頑張るもん!!裕也と晴陽祭回りたいし…」
少し俯きながら言う美波に対して摩る…基、撫でる手を止めずに明後日の方向へ向きながら俺は少し語る。
「まぁ、俺も教える程頭良くないが美波と晴陽祭回りたいし同じ大学行きたいしな…できるだけ俺も頑張るよ」
「裕也…ありがとう」
そんな台詞が投げかけられるとは思わなかったので思わず照れて少し撫でる手が強くなる。
「どアホ…そんな事言ってる暇あったら勉強するぞ。とりあえず数学諦めたのなら物理いくか」
「勉強会もこの話題も裕也が振ってきたのにね」
そんな言葉を聞き流し再び部屋の真ん中に出した机の方に着いた。

「なんで物理にこんなに公式があるのよー!!公式は数学で十分だー!!」 「どアホ!!本気でペナ受けるつもりか!!少しは文句言わずに筆動かせ!!」
俺の彼女は少し頭が足りなくて先行きが不安になってくるが…
「まったく…美波は本当にアホだな…」
「むぅ…そんなにアホアホ言うなよぉ…私だって気にしてるんだし…裕也とはやっぱり釣り合わないんじゃないかって…」
美波の頭を撫でながら言う。
「だったらゆっくりでいいから一緒に勉強していこう。俺はずっと美波の傍にいるからさ」
「そんな事言われたらちゃんとやらないといけないじゃない」
「言われなくてもちゃんとやってください」
俺の彼女は少し頭が足りなくて先行きが不安になってくるが…こんな勉強会も今の俺には楽しく感じている。
(だけどもう少し俺をハラハラさせない程度には頭良くなってもらわないとな…)


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