No17いたいけな彼女

「くっ…すまない、これまでのようだ」
勇者を最後まで守り続けてくれていた僧侶の身体が吹き飛び壁へとぶつかる。
これで残るは勇者一人。
「これで貴様を守るモノは無くなったな…我が漆黒の四天災を幾度となく破ってきたようだがそれも我がビックストーマーにかかれば雑作もないことよ」
今までのアークバイブ、サンダークラウド、ファイヤーマターとは明らかに格差が違う。
漆黒の四天災の頂点に立つビックストーマーは不敵な笑みを湛えていた。
「しっかりしろッ、シュウ!!この戦いが終わったら彼女にプロポーズするって言ってたじゃないかッ!!」
勇者は駆け寄り僧侶の身体を抱きかかえる。
その身体は既に力が入らないようだ。
「ははっ…そうだったな…でもな、俺の身体はもうもたない…ユーヤ、この戦いが終わったらこの指輪をあいつに…マーリに渡してくれないか?最後のプレゼントと伝えてくれ…」
「あぁ…絶対に渡す…だから起き上がってくれよ…」
「ありがとう…すまないもう何も聞こえないみたいだ…お前の姿も…」
僧侶シュウは勇者ユーヤに指輪を渡すとその一言を残し力なく倒れる。
「シュウーッ」
叫ぶユーヤの姿を見てビックストーマーは高笑いをし始める。
「フハハッ!!勇者よッ!!別れは済んだか?大丈夫だ…直ぐに同じ場所に送ってやる。他の四天災を破った際に散ったお前の仲間達と同じ所になッ!!」
ふと勇者の脳裏に今まで散った仲間達の顔が浮かぶ。
「皆…俺はもう…何も失いたくないッ!!」
ユーヤが決意と共に叫ぶと四天災・サンダークラウドが浄化され生まれた四天器の一つ風見の盾が蒼く光りだす。
「むっ…青天の力を引き出したか…だが我は負けぬッ!!他の四天災の為にもだッ!!」
ビックストーマーの咆哮と共に数多の閃光が生まれユーヤに襲い掛かる。
「そんなもの効くかーッ!!」
盾を構えながら突き進むユーヤの元に閃光が突き刺さるが全て風見の盾によって打ち消されていく。
その様子にビックストーマーは動揺を見せる。
その表情を確認するとユーヤはもう一度咆哮し更にスピードを上げた。
「これで終わりにしてやるッ!!」
ズンッ…
鈍い音と共に四天器が一つの百葉の剣がビックストーマーの胸元に突き刺さる。
「晴天と化せ…四天災ビックストーマーッ!!」
グォォォオオオオッ!!
この世の物と思えない程の重低音の咆哮が部屋一帯に響くと同時にビックストーマーの身体は光となる。
「グッ…これで我が四天災は全て散った…後はメガメテオ様に託すのみだ…既に臨界の儀式は終わっている…貴様なぞにメガメテオ様は倒せまい………アークバイブ、サンダークラウド、ファイヤーマター…今逝くぞ…我が友よ…」
その言葉を吐くと同時にビックストーマーの身体は完全に光となりその跡には宝玉…四天器最後の一つアーメダスの宝玉が残されていた。
「後は…メガメテオ…あいつだけだ」
ユーヤは決意を新たに魔王メガメテオの待つビックヴァン城へと向かおうとした時だった。
「待ってください。あなたが勇者ユーヤですよね?」
部屋から出ようとしたユーヤは振り向くと奥の方に牢屋がある事に気付く。
「誰だッ!!」
慎重に牢屋に近づくユーヤ。
そこには幼気な少女が一人。
その姿にユーヤは見覚えがあった。 「あなたはサウス姫!!」
牢屋に囚われていた少女はサウス姫。
ユーヤを勇者として送り出したサニースポット城の王女であった。
「今すぐ助けます。とりあえずその後はまず討伐部隊前線基地の方に…」
ユーヤはサウス姫の牢獄を破るとか弱きその手を手に取りビックストーマーの塔を後にした。

前線基地内にある勇者一行に与えられた宿舎。
「この部屋も広く…静かになったな…」
ユーヤは部屋を見渡す。
「あいつら…散々散らかして後片付けもせずに…」
ユーヤの手は拳を造り微かに震えていた。
そんなユーヤにサウス姫は諭すように語り掛ける。
「今後について話があります。どうか今は魔王メガメテオの事をお考えください」
その言葉にユーヤは我を取り戻す。
「そうですね…後はメガメテオのみです。姫はここでお待ちください。私が一人でヤツを滅します」
力強い決意の表れを見せるユーヤだがその言葉のサウス姫はゆっくりと首を横に振る。
「今のあなたではメガメテオには勝てません」
「どうしてッ!!」
思わず大声で怒鳴るユーヤ。
しかしサウス姫は動じることなく話を続ける。
「あなたがビックストーマーに使ったあの力…晴れやかな天の力、晴天の力といいます。あなたが四天災を破り手に入れた四天器である百葉の剣、風見の盾、降雨の鎧そしてアーメダスの宝玉…この四つの天器の晴天の力を引き出した時に真の力…澄みされし天の力、青天の力を手にできるのです。ビックストーマーは一つでも青天の力だと思っていたみたいですが…」
サウス姫の言葉に納得のいかないユーヤは苛立ちをぶつけ始める。
「ならどうすればいいのですッ!!私の仲間はもういないッ!!国の兵達では陽天の力は宿っていないッ!!魔王に近づいただけで土塊と化します!!なら今倒さず何時倒すのです!!四天災を破った今何時メガメテオが動いてもおかしくないのですよ!?」
その言葉にサウス姫は覚悟を決める。
「わかりました…確かに今討たなければ魔王を討つ機会を永遠に逃しかねません…私の力を使いましょう」
サウス姫はその力について万が一他には聞かれてはならないとユーヤに耳打ちをする。
その内容にユーヤの表情が強張る。
「それだと姫の身に何が起きるか…」
その言葉を聞くとサウス姫は笑顔で答える。
「その時はあなたが守ってくれるのでしょ?」
「そう…でしたね。たとえ地獄の果てへと旅立つ事となろうと私の命を懸けてお守り致します」

ビックヴァン城。
その地は瘴気に包まれ城内にはこの世のモノとは思えない魔物で溢れかえっていたがユーヤの攻撃が全てを薙ぎ払い続けユーヤ達はメガメテオの元へと辿り着いたのであった。
「よく辿り着いたな…勇者よ。おや?姫様までいらっしゃいましたか。ビックストーマーが丁重に持て成していたはずなのだがな…」
メガメテオの紡ぐ言葉の一つ一つが瘴気となり部屋を満たす。
「それはもう極上のスイートルームで勇者様のご勇姿を拝見させて頂いておりましたわ」
「メガメテオ…御託はいい…さっさと決着を付けよう」
ユーヤは百葉の剣を抜きメガメテオに向ける。
「ほほう…まだ青天の力は目覚めていないか…そんな状態で私に立ち向かうとは…舐められたものだなッ!!」
メガメテオの咆哮がユーヤ達を吹き飛ばさんとする。
しかしその衝撃にユーヤは物ともせずに立ち向かう。
「知っているぞ…青天の力は貴様を守るその瘴気を断ち切る為のモノ…つまりその瘴気さえ掻き消えればこの剣で貴様を倒せるということを…青天の力があれば貴様の中にある全ての瘴気を消せるが残念だがそうもいかない…ならこれ以上の瘴気を増やさないだけで十分だ…いくぞッ!!」
ユーヤは駆け出すッ!!
その腕にある風見の盾が蒼く輝きユーヤに纏う瘴気をかき消していく。
しかしメガメテオの表情は不敵な笑みのままだった。
「しかし…その一太刀も私に届くのかな?私の身体に辿り着く前に瘴気に飲まれなければいいがな」
「その余裕…すぐに崩してあげます…私を何故閉じ込めておいたのか忘れたのですか?」
サウス姫の身体が蒼く輝く。
その光はメガメテオの取り巻く瘴気をかき消していく。
「私には勇者達と同じ陽天の力が宿っています。そしてこの陽天の力を青天の力に変換できる力が私にはあるッ!!」
更にサウス姫の輝きが増していく。
「グフッ………っと、私がそれを忘れていると思いで?」
ユーヤの剣先がメガメテオに後一歩という所だった。
突如瘴気の濃さが増しユーヤの足を止める。
「嫌…何?…私の中に何かが入ってくる…」
サウス姫の輝きが鈍くなり瘴気の闇に包まれていく。
「姫様…あなたの中に私の瘴気を送り込ませてもらいました。陽天の力が無い今その瘴気に耐える事はできないでしょう。この技を習得するためにあの四人には犠牲になってもらったのですからね。じっくりと味わいなさい、私の瘴気の味を」
「サウス姫ッ!!…くそっ…もう誰も失わないと決めたのに…必ず守ると決めたのに…」
その絶望の最中ユーヤに語りかける声が届く。
「ユーヤ…あなたは約束してくれましたよね?私の住んでいたあの町に緑を取り戻してくれると…」
サンダークラウドとの戦いで散ったカリンの声ユーヤに届く。
「そうだったよな…あの町に緑を…取り戻すんだったよな…今一度約束する…俺があいつを討てたらあの町に緑をッ!!」
「ありがとう…私も今一度あなたに力を…」
絶望の淵から一歩這い出すユーヤ。
その身体に纏った降雨の鎧が蒼く輝き始める。
「勇者…アンタはこんな所で諦めるのか?アタシと競い合ったアンタはどこいったんだい。アンタがここで死んだら身代わりになったアタシが馬鹿みたいじゃないか」
ファイヤーマターとの戦いで散ったニーナの声ユーヤに届く。
「お前には大きな借りがあったんだよな…負けず嫌いのお前が俺に勝ちを譲ってくれたんだ…俺は諦めないッ!!」
「それでこそアタシのライバルだ…最後にアタシの力をアンタに…」
絶望の淵から更に一歩這い出すユーヤ。
その手に握られた百葉の剣が蒼く輝き始める。
「ユーヤ…お前、俺との約束忘れてないよな?ちゃんと指輪渡してくれよ?こんなところでくたばっちまったら渡せないじゃねーか」
ビックストーマーとの戦いで散ったシュウの声ユーヤに届く。
「あぁ…ちゃん渡してやるよッ!!もう、弱音なんて吐かないッ!!倒れてたまるかッ!!」
「頼んだぜ…相棒…」
完全に立ち上がるユーヤ。
首に提げられたアーメダスの宝玉が蒼く輝き始める。
「青天の力を目覚めさせたか…だが、私には敵うまい。四天災の瘴気も私が頂いた…今までの私ではないぞ?本気を見せてやろう!!」
メガメテオの笑みは消えその表情は真剣な物となり一層瘴気が濃くなる。
しかし、ユーヤは怯まない。
「今の俺にはそんなもの効かないッ!!」
四天器の輝きが増し青く、その輝きにつられてユーヤの身体も青く輝き始める。
その輝きはどんどんと増していく。
「これが貴様の最後だッ!!」
青き輝きが辺りの瘴気を完全に消滅させる。
メガメテオに走り寄るユーヤ。
「まだだッ!!」
咆哮とともに部屋全体から瘴気弾が生まれユーヤに襲う。
「効かないと言っているだろッ!!」
百葉の剣を一振りすると青き軌跡が輝きを広げ瘴気弾をかき消す。
「ならば…これならどうだ」
メガメテオは瘴気を一点に集中させる。
「カオスレーザーッ!!最大出力ッ!!」
瘴気の光線がユーヤを貫こうとする。
「ウォオオオオッ!!」
盾で受けながらユーヤは一歩ずつ踏み出していく。
「これで最後だと言っているだろうッ!!」
ユーヤの咆哮が光線を打ち消す。
メガメテオの表情が驚愕に変わった瞬間だった。
ドスッ…
剣がメガメテオに突き刺さる。
「青天と化せ…メガメテオッ!!」
「ッ!!」
一言も発せずメガメテオは光と化していく。
「これで終わった…」
剣から手を離さず一息を吐くユーヤ。
そんな最中に完全に光と化しかけているメガメテオの声が届く。
「これで私は滅びた…しかし、貴様の思い人も連れて行くぞ?フハハッ…」
完全に光と化したメガメテオ。
四天器は最後に盛大に青く輝き世界の瘴気全てを浄化した。
…しかしそれで終わりではなかった。
「姫…終わりました。貴方の力のおかげで…」
ユーヤはそこまで言い絶句する。
サウス姫の身体は瘴気に蝕まれたまま倒れていた。
その姿を確認し駆け寄り抱き寄せるユーヤ。
「どうして…瘴気は消えたはずなのにッ!!」
泣き顔になっているユーヤに幼気な笑顔で答えるサウス姫。
「私の身体は既に陽天の力はありませんが元はあった身体…欠けた部分には何かを埋めなければ身体も心も崩壊してしまいます。…私の身体はその欠けた…部分に瘴気を…当てはめたようで…」
徐々にサウス姫の呼吸が荒くなる。
瘴気の蝕みが身体の芯にまで達しようとしている証だった。
「…欠けた部分に…ですか」
ユーヤはその言葉に勝機を見出せた。
「姫…いや、サウス…俺は君の事が好きだった。王国騎士団に入った理由だって君のそばにいられると思ってだった。近衛騎士団にもこの戦いが終わればなれるはずです…」
突然の告白にサウス姫は驚きの表情を見せる。
「私も…貴方の雄姿を見ていて好きになってしまっていました…でも、婚約も何も無理ですわね…私の命もこれま…で…」
「…失礼します」
その一言の後ユーヤとサウス姫の唇の距離はゼロになる。
その瞬間に暖かな光が二人が包む。
(俺の陽天の力を分け与えればッ!!)
仲間から受け取った陽天の力を注ぎ込む。
そして光は部屋全体を包み込み…
ドヨヨーン………

「ちょっとッ!!SE間違ってるって!!」
晴陽高校講堂。
俺たちはここで晴陽祭で公演する演劇の練習をしている訳だが…
「おい、えりと涼馬。お前らこのシーンでわざと間違えるように指示してないだろうな」
俺は美波の唇から顔を離し言うと同時に何度もこのシーンのやり直しをする脚本兼監督の涼馬と演出兼演技指導のえりの方を疑いの目でみる。
「あはは…まさか」
「そんな訳ないだろ」
視線を逸らして言う2人に透かさず俺は突っ込む。
「おい、こっち見て言え」
「まぁまぁいいじゃない。私は嫌な気分じゃないよ?」
楽天的に言う美波。
そんな彼女を見て思う。
(この幼気な彼女を俺はこの劇の勇者のように守りきる事ができるのだろうか…)


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