No13 砂糖

貴方は誰かの珈琲に入れる砂糖の数を知っていますか?
兄弟のは?
親のは?
友達のは?
恋人や夫婦間では?
そして…好きな人のは?
私は…

「…なんで夏休みに部屋に篭って書き仕事せんとあかんのかな…」
私の相方である羽間英人がらしくない言葉を漏らす。
そんな彼に私はすかさず突っ込みを入れる。
「それは、この学校の文化祭が10月にあり部活動もクラスも教師もてんてこ舞いな挙句私達のクラスの出し物が終業式の日に決まったから他の仕事が滞ってたからだろう」
丁寧きっちりと答えるがやはり私だ…事務的にしか返事はできない。
「そういえば、他の人間はどうしたんだ?というか、よくクーラーの効いた生徒会室なんて借りれたな」
私は思わず一つ溜息を吐いてこの話を聞いていなかった相方にら説明してやる。
「昨日、ある部活で事故が発生して生徒会も原因調査とかで出払うから今日、明日と全体会議は行われないって言ってただろ?」
愛想の一つも振りまけないのかと自己嫌悪に陥りそうな私はせめて彼の前だけではそんな状態を見せまいと踏ん張る。
「あぁ…その部活って女子陸上だよな?いつも聞こえる声が聞こえん」
窓の外を見ながら言う彼。
昨日の会議ではそんな事発表されていないが確かに今朝はいつも一緒に学校に通っている女子陸上に所属している友達が休みになったと言ってたからその通りなんだろう。
(相変わらずこういう事には気がつくんだな…)
私は相変わらず目を用紙から目を離さず手を動かす。
「っで、今日はどこまでやればいいんだ?」
やる気のないような声で言う彼に私は区分を伝える。
「今日、明日と2日で分けるなら其処の用紙が終わればいいわね」
私は山になった用紙を指して言う。
「まじか…2日でどれくらいなんだ?」
私はその問いに無言で指す
その先のものを合わせば倍となっていた。
少し顔を上げて彼を見てみると嫌そうな顔をしながらも手を動かし始めた。

そもそも私達の仕事としてコレが仕分けられているのには理由があった。
コレの内容の大半は備品使用許可証や使用教室の申請にプログラム申請。
つまりは大半は生徒会がやるべき仕事だった。
だけど今は私達がやっている。
それこそ取引によって生まれた仕事なのだ。
本来当日は学級委員などの委員長達が受付と見回りを行う文化祭実行委員として仕事を行い生徒会は生徒会の出し物をする事になっている。
コレは生徒会が常日頃風紀整備等に縛られている為に文化祭ぐらいは開放してやろうという計らいらしい。
私はコレを逆手にとって夏休み等に行われる文化祭関係で分配される生徒会の仕事を引き受ける為に当日の私達の解放を引き換えにした。
それを提案したのは私なのだが彼も乗り気で賛同してくれたので今に至る。
もちろん、もし引き換えなければ文化祭では確実に彼と一緒に活動ができないという本心は隠してだ。

「明後日までに仕上げないとこの話はチャラになるらしいのでちゃんとやりましょう」
励ましのつもりで声を掛けるがやっぱり心を込める事ができなかった。
彼はやる気を出すためなのか席を一度立ち一言。
「ちょっと茶淹れてくる」
この生徒会室には接待の為も含めて委員が自由に使えるポットと茶葉がある。
ポットの方には私が朝沸かしておいたお湯がある。
そう、このタイミングを見越していて…
「英人は珈琲党だったよな?今日インスタントだが珈琲を持ってきている。飲むか?」
相変わらず可愛くない言い方に自暴自棄になりそうになりながらも虚勢は張る。
彼といるとこんな反省と虚勢の繰り返しだ…しかし
「おっ、サンキュー」
この言葉に私は何度となく救われているような気もする。

私はポットの前に立ちカップを用意する。
カップに容れた珈琲にお湯を注ぎ角砂糖を一つ彼用のカップに入れる。
溶けきった事を確認すると私はトレーに乗せ彼の前に出すと自分のカップを持ち席に着く。
彼がカップを口に運ぶ所を確認する為に私の手は止まり続ける。
そして口に珈琲を口に含む所を確認するとやっと手を動かす事ができた。
しかしながら私の手は直ぐに止まる事となった。
「…柳川、よく俺の砂糖の数わかったな。これ砂糖一つだろ?」
私は内心ガッツポーズをしながら悟られないように答える。
「いつも会議の時に珈琲を頼んでるから嫌でも覚えるわよ」
「そうか?俺は気にしてないけどな…」
(あっ…やっぱり私気にされてないのか…)
振られてしまった訳ではないのだろういけど何となく気分は落ち込む。
「でも、これ旨いな。やっぱり相手の事をちゃんと覚えておくもんだな。そうだ柳川は砂糖幾ついれるんだ?」
私はその言葉で再び救われる。
浮き沈みの激しい私の心に突っ込みを入れたいけどそれよりも先に私は口を開いていた。
「私は英人の行動を見てそれを知ったんだ。英人も自分で確認してみろ」
素っ気無い言葉。
やっぱり自分が嫌いになる。
それでも彼は…
「そうか…なら明日は注意して見てみるとするよ」
そんな言葉を掛けてくれる。
「っツ…っと無駄話はここまでだ。作業を進めないと今日も明日もない徹夜になるぞ?」
「それもそうだな。それだけは勘弁だしな…」

きっと私は明日も彼に珈琲を淹れるだろう。
インスタントの珈琲に角砂糖を一つだけ入れて…

私は彼の砂糖の数を知っている。
果たして彼は私の砂糖の数を覚えてくれる日はくるのだろうか…


戻る inserted by FC2 system